古美術 華羅漢

小仏 厨子のなかの小さな仏の世界 古美術とはずがたり

扉の中に広がる仏の世界

日本に仏教が伝わり、さまざまな仏像が作られてきました。
その中に念持仏、枕本尊と言われる小型の厨子に納められた仏像があります。
お寺のお堂ではなく、日常での信仰のため作られた仏像です。
小さな物は5センチ程度でとてもコンパクトに作られており、江戸時代に盛んに作られました。
多くのものが簡素なつくりの中、技巧に優れ、大変華やかな作品もあります。

そもそも厨子とは

厨子とは仏像が納められる扉の付いた箱状の入れものです。
元を辿ると厨子の“厨”は厨房を意味し、厨子は台所で食器などを収納した棚や箱物を指していたそうです。
日本の奈良時代では、観音開きの扉と床脚を備えた棚を仏教に関わりなくとも厨子と呼んでいたことが知られております。
これが仏教でも用いられるようになり、仏像や仏舎利、仏画、経典を納めるために用いられてきました。
形も多様で宮殿形、春日形、木瓜形、箱形などの形式があります。

華やかに飾られた厨子

華やかに装飾した厨子が作られています。
それぞれに専門の職人が携わりました。
蒔絵師は表面全体に黒漆や梨地を施しさらに平蒔絵で模様を描くこともあります。
かざり師は銀や鍍金された金属を用いて彫り金し意匠をこらしたかざり金具を作ります。
正面の扉部分の模様は想像上の花"宝相華"です。
美しく豊穣な仏菩薩の世界を表します。
これは仏教の伝来とともに日本に伝わり、仏教工芸装飾として盛んに用いられてきた文様です。

細やかに彫刻された姿

小さいことは、それだけで彫ることが難しいはずなのに、顔の表情や身に付けた衣、さらには光背の透かし彫りから台座の蓮弁までも丹念に作りこまれております。
扉を開けると、驚くほど細やかに彫刻された仏の姿が現れる。
技術もさることながら特別な材料や道具が必要だったようです。
なかには金箔や金泥、極彩色で華やかに装飾を施し、内側の金色と重なり見事な空間を表現したものもあります。

それぞれに表された仏の世界

厨子の中を良く見ると、同じ仏でも手の形や持ち物などに違いがあり、多様な姿で表されています。
そして単体の仏を納めることが多い中、まれに二体以上の複数の場合や、厨子の扉の内側に絵画で脇従を描き表されたものもあります。
いずれの場合もそれぞれの経典で定められた組み合わせです。
時折、見慣れぬ容姿や組み合わせで表された仏も見かけます。
個人の信仰など特殊な事情によりつくられたのかもしれません。

外見もさほど変わらず、あまり違いが無いように見えますが、厨子の中にはそれぞれ表された仏の世界が存在します。


写真にカーソルを合わせると細かい部分も見ることができます。